鼻の仕組みについて
鼻腔の周りには、骨で囲まれた空洞「副鼻腔」が存在します。
鼻腔でウイルス・細菌に感染し、そこから副鼻腔まで炎症が波及した状態が「副鼻腔炎」です。この状態が長期間続くと、「慢性副鼻腔炎」になります。副鼻腔内の粘膜が腫れることで空気の通り道が狭くなり、さまざまな症状を引き起こします。
鼻内内視鏡手術を含む副鼻腔炎の治療では、その空気の通り道をしっかりと通し、鼻の正常な機能(通気・自浄作用)を取り戻すことを主な目的としています。
鼻内内視鏡手術(ESS)とは
鼻内内視鏡手術(ESS)は、小型の内視鏡を鼻の穴から挿入し、医師がその映像をモニターで見ながら行う手術です。
1980年代頃から、慢性副鼻腔炎の手術治療に内視鏡が使われるようになりました。従来の肉眼視野での手術と比べ、精度・安全性が飛躍的に向上しています。光学機器もどんどんと優れたものが開発され、モニターで観察しながら複雑な処置ができるようになりました。
従来では切開の上での観察・処置が必要であった症例でも、切開を省略して、あるいは最低限の切開で手術ができるようになりました。
手術に伴う合併症リスクの存在
安全とは言え、切開を伴う手術です。視覚障害や脳障害などの重大な合併症を起こす可能性があるという認識は必要です。
ただし、当院院長は、これまで2000例以上の手術を行って参りましたが、そのような重大な後遺症が起きたことは1度もございません。
適応される病気について
慢性副鼻腔炎
急性副鼻腔炎から慢性副鼻腔炎へと進展してしまうと、常に鼻が詰まったり、鼻水がひどくなったり、頭痛や倦怠感、嗅覚障害などを伴うようになります。これらの症状は生活の質へ大きな影響を及ぼします。
通常はまず保存的療法を行いますが、それらの治療で十分に効果が得られないとき、鼻ポリープができているときなどには、鼻内内視鏡手術を行うことがあります。
治療方法
鼻内に麻酔をかけた状態で行います。挿入した内視鏡を使い、副鼻腔を囲う骨を取り除き、内側で炎症を起こした粘膜・膿を除去します。鼻の両側に対して行った場合、約1時間で手術は終了します。
一般的にはここでガーゼタンポンを鼻内に挿入しますが、当院では手術中の出血がわずかな方に対してはガーゼタンポンを挿入しておりません。これにより術後の疼痛や苦痛がかなり軽減しました。ただ、手術中の出血が多い方や血圧が高く、術後の出血が多くなることが予想される場合はソーブサンという綿状の止血剤を少量鼻内に挿入することがあります。この止血剤は術後の処置の際、ゲル状に溶けて流れ出るため、抜去する必要はありません。術後は当院での洗浄に加えて自宅でも「ハナクリーン」を使用していただいております。
洗浄により創部がきれいに保たれ、また40度のお湯で加温することにより傷の治りが促進されます。
ハナクリーン
当院の外来の処置で行う「鼻洗浄」と同等の効果が得られる器具です。ご自宅で簡単に鼻洗浄を行っていただけます。
当院では、副鼻腔炎の手術後に一定期間使用していただく他、他の副鼻腔炎の治療と併用して行っていただくこともあります。
鼻洗浄は、一見アナログな処置ではありますが、アメリカでの大規模な研究でも、抗生剤・抗アレルギー剤の投与よりもはるかに優れた有効性が確認されています。
通常の鼻かみでは、後ろに流れる膿を出し切れません。鼻洗浄は、こういった膿までを洗い流せる点でも評価されています。
専用の洗浄液には薬剤が含まれていますが、使い切った後は洗浄液を手作りしていただくことも可能です。
初め、症状が強いときには1日1回、できれば1日2回のペースで行っていただくと良いでしょう。
洗浄液のつくり方
150ミリリットルの水(湯)に対して、1,5グラム(小さじ1/3程度)の塩を溶かして作ります。40℃前後に温めると、アレルギー反応・炎症反応の抑制に効果的です。(ハナクリーンに温度計がついており、40℃のお湯が簡単に作れるようになっています)
ナビゲーションシステム
2020年4月からメドトロニック社製ナビゲーションシステム、Fusion Compactを導入しました。この機械は手術操作を行っている部位がCT画像上のどの部位に当たるのかを示す機械で鼻と隣接する目や脳との境目が明瞭にわかるため安全性が飛躍的に向上しております。
手術後の注意点
- 手術後は出血があり、驚かれる方もいらっしゃいます。夜の7~8時頃がピークとなり、眠る頃にはだんだんと治まり、翌日の朝にはほとんどなくなります。
- 手術後、最初の2~3週間は週に一度、その後は少しずつ通院間隔を開けていき、1~1か月半ほどで治療は終了となります。